地図

  

静かな秋の朝。

朝食後の紅茶を楽しみながら

ガラス戸越しの、穏やかな陽の光を背に

一年以上も手にした事のない中部圏のドライブ・マップを開いていた。

   

   
・・・・・・

「そうか、彼女の家は、伊良湖水道の近くだったんだア・・・・!!」

・・・・こう呟くと、僕は・・・・

もう 40 年も昔の青年時代に

大型商船の夢多き三等航海士として

この伊良湖水道を通過した初夏の朝の

夢のように美しかった、周囲の島々の景色を思い出した。

   

   
「・・・・?」

ドライブマップの伊勢湾の下には

伊勢・志摩地方の町並みの地図が展(ひろ)がっている。

・・・・宮川という大きな河の上に懸かっている

国道 23 号線の宮川大橋や、県道の豊橋大橋

・・・・そのほかに見えるのは・・・・

近鉄鳥羽線や JR 参宮線の鉄橋や上流の橋

・・・・始めて開いたぺーじなのに・・・・

もう何回も、このページを開いた様な気がする。

   

   
僕は地図を見るのが大好き・・・・

このヒュッテには、近隣の市町村の各戸地図があるし

東京の自宅には、今迄に行った外国の都市地図が沢山ある。

・・・・・・・

・・・・僕は地図を見ると、そこに住んでいる人達の姿が

見えるような気がしてならない・・・・。

   

   
今も、そう・・・・

このページの地図を眺めていると、

そこにある町並みが、見えて来るような気がする。

・・・・地図の上、北の方の海岸には、伊勢シーサイド・モビレージが、

東の方に、二見浦の夫婦岩を見付けて

「ああ、こんな所にあったんだア・・・・」と・・・・

遠い昔、高校時代の修学旅行で訪れた時のことを思い出した。

   

   
西の方を見ると、蛇行している櫛田川の近くに

近鉄のXX駅があるのを見付け

「あれえ、ヒトミちゃまの家は、この近くなんだア・・・・!!」

と、思わず心の中で呟(つぶや)いてしまった僕。

・・・・その後で

「彼女の家は、どの辺だろう・・・・?」と・・・・

分かる筈もない、そのページに顔を近付けた僕・・・・。

・・・・何んと少年っぽい僕なんだろう!!

   

   
・・・・僕はいつも、そうだけど・・・・

大好きな人に出会うと・・・・

地図を開いて、その人が住んでいる町並みを眺めて見る・・・・。

何故だか分からないけど、いつもそうなんだよ・・・・!!

   

   
今朝も、そう・・・・・

9 月の午後、始めて会った時の彼女の姿と・・・・

一昨日の夜、たった 20 行のメールを打つのに、

「2 時間も掛かっちゃった」

と言って来た彼女の姿を心に描いたら・・・・もう駄目!!

・・・・いつの間にか、このページを開いていた・・・・!!

   

   
ふと、気が付くと・・・・

部屋の中には、ティタのギターが奏(かな)でるアデライーデの曲が流れていた。

   

   
本当に美しい曲・・・・

「いいな・・・・!!」

と呟いあと、フト気が付くと

僕は空いている左手を、彼女の住んでいる町並みの上に重ねていた。

   

   
・・・・・・・・・・

でも、・・・・でも、・・・・

・・・・・・・・・・

その地図がとても温かく感じたのは

ガラス戸越しに射し込んでくる

やわらかい秋の陽射しのせいだけだったのだろうか・・・・??

   

(2000-10-07 の高原日記日記より)

  

     

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