小海町の蝶  第8集

  

小海町の蝶(71)   クロアゲハ

文・写真/小池 一成

監修/八岳 晴耕

   

      

昨年の夏、家の庭先の フロックスの花に黒いアゲハ蝶が来ているのに気がついた。小海町で一番ポピュラーな真っ黒な蝶といえばオナガアゲハ(参照?49)であり、里山周辺で普通に見られる。

「オナガアゲハが庭まで来るとは珍しいなぁ」と思い眺めていたが、花の蜜を夢中で吸っていて飛び去る気配がない。これは、写真を撮るチャンスとカメラを構えて近づいてみると、後翅が細長く全体的にスマートなオナガアゲハと違い、後翅が幅広くどことなく重量感がある。「ゲェ!クロアゲハか!?」持っていたカメラを放り出し、車から捕虫網を取り出してやっと採集することができた。

あわてて採集したことには、理由がある。東京近郊などでは普通にみられて知名度もあるクロアゲハだが、小海町では比較的珍しい蝶で、初めて見たからである。

「小海町の蝶」において、八岳晴耕師匠は、これまでに、ミヤマカラスアゲハ、キアゲハ、カラスアゲハ、オナガアゲハ、アオスジアゲハの5種類のアゲハ蝶を照会しているが、ここに、クロアゲハが含まれていなかったのは、やはり小海町では、珍しく採集した標本がなかったからだと思う。

幼虫は、サンショウやカラタチの葉を食することから町内の庭木か垣根など何処かで繁殖しているのかもしれない。

  

         

小海町の蝶(72)   シータテハ

文・写真/小池 一成

監修/八岳晴耕

   


       

春。いよいよ蝶のシーズン到来も間近である。梅が咲き、あんず、桜、桃と咲く花が変わってゆくことで季節の移り変りを感じることができるように、コツバメ、ミヤマセセリ、ツマキチョウ、ヒメギフチョウと新たに出現する蝶でも同様に季節の変化を感じることができる。

小海町では、春が来てから新しく羽化する種類の蝶にお目に掛るのは、4月に入ってからだが、前年の中に成虫になり、蝶の姿で冬を越す種類の蝶には、道路の法面や南斜面の草原など日当りのよい場所で、3月下旬に見かける事ができる。

その姿は、いかにも厳しい冬を乗り越えたように、色あせてボロボロの翅のものが多いが、中にはそんなことを感じさせないきれいな翅を持ったものもいる。 

シータテハも成虫で冬を越す種類の仲間だが、その割には、傷ついてないきれいな翅をしたものが多い。

シータテハは、前翅の裏面に、名前の由来になったと思われるアルファベットのCの模様が、翅全体の枯葉色の上に白い色でくっきりと描かれている。

さらに、翅の輪郭が手で紙をちぎったように複雑な曲線を描いているのも、この蝶の特徴である。

春一番に桜の花などで他の蝶と混じりながら熱心に蜜を吸っている姿は、春が来た喜びを全身で噛み締めているようで、とても健気な感じがします。

    

  

    


小海町の蝶(73)   スギタニルリシジミ

文・写真/小池 一成

監修/八岳晴耕

 馴染みのないこの蝶を探してみようと思ったのは蝶の採集を始めて2〜3年たった春先のことだったと思う。珍蝶というほど貴重な種類ではないが、幼虫の食草がトチノキの花穂であることから生息域が局所的であるという。

小海町でトチノキと言えば松原湖の湖畔に立つ巨木がすぐに思い浮かぶ。小学生の頃、松原分校からの帰り道に道草をして大きな実を拾った記憶があるからだ。釘で実をほじり、笛をつくることが目的だったが、不器用な私は余計な穴をあけてしまい一度も完成させることが出来なかった。

4月下旬、その場所へ行って探してみたが見つからない。町内の沢沿いを探したがトチノキがあまりない。

この蝶の発生は早春の約半月間。これを逃すと1年間待たなければならない。
 町内での採集を諦めて他を探す。上田市の林道で日が翳りだした頃、道脇の枯れ草から数頭のシジミ蝶が舞い上がった。「スギタニか?」。 ルリシジミは翅の裏面が白いのに対してスギタニルリシジミは銀色をしており、その一隅に「くの字」模様が付いている。

 間違いない!スギタニだ。周辺にはトチの葉も落ちている。数頭採集し満足して帰路に着いた。次の日、芦平の涸れた沢でも採取することができた。町内には他にいくつかの生息地があり、春の日差しの中で人知れず舞っているのだと思う。

            
            

小海町の蝶(74)   イチモンジチョウ

文・写真/小池 一成

監修/八岳晴耕



 カラマツの新緑、カッコウの鳴き声、そしてイチモンジチョウ。小海町の初夏の風物詩とは言い過ぎかもしれないが、代表的な風景であることは間違いない。

 イチモンジチョウは、その名のとおり翅の表の黒色に白く一筋の帯の模様をつけている。

小海町では、初夏から秋頃まで普通にみられるが、初夏の頃は羽化したばかりの翅が美しく、砂利道で日向ぼっこや吸水をしているものが目につきやすい。

同じ仲間にフタスジチョウ、ミスジチョウがいる。ミスジチョウには、オオミスジ、ミスジチョウ、コミスジ、ホシミスジと種類が

多く、八岳晴耕師匠により「小海町の蝶」?4〜?7で紹介されているが、特にオオミスジとホシミスジの号では、蝶への思いとともに採集時のエピソードがつづられており、何度も読み返してしまう。

イチモンジチョウにも本種のほかに、オオイチモンジとアサマイチモンジがいるが、オオイチモンジは高山蝶で上高地などが代表的な生息地であり、県天然記念物などで一般には採取ができない。アサマイチモンジは本種にそっくりで翅についている斑点や線の並びが見分ける1つのポイントとなっている。

両種ともこれまで町内において生息、採集の記録はないが、可能性は十分にあり、発見するのが楽しみである。

    

小海町の蝶(75)   メスアカミドリシジミ

文・写真/小池 一成

監修/八岳晴耕


      

今年も待ちに待った
ゼフィルスの季節がやって来ました。
「ゼフィルス」とはギリシャ語で西風の精のことで、
ミドリシジミ類を総称しています。
        

ミドリシジミ類の蝶は、
主としてメタリックグリーンの美しい羽をもったシジミチョウの一群で、
2匹のオスが縄張り争いのため、
お互いに相手を追いかけ、
クルクルと絡み合いながら飛んでいるのが、
しばしば目撃されます。
      

これらの美しい蝶に出会った蝶好きな人達は
忽ち「ゼフィルス病」という病に掛かってしまうことが知られています。
症状が重くなると八岳晴耕師匠のように、
羽化したばかりの美しい蝶を手に入れるために
飼育をするようになり、冬に卵を採りに出かけ、
その卵から孵った幼虫の餌となる枝葉を
大量に冷蔵庫で保存する事になるそうです。
      

時には幼虫が飼育箱から
逃げ出すこともあるでしょう・・・
家族の大顰蹙を買っても、
それでもやめられないのが、
この困った病気のようです。


さて、メスアカミドリシジミの活動時間はお昼頃で、
早朝や夕暮れに活動する他のミドリシジミより見つけやすく、
渓流沿いの開けた空間がポイントの一つとなります。
林道に架かる橋から見下ろすと、
枝の先で縄張りを張っているオスに会えることができます。
そんな場所で、小躍りしている自分も、
もうこの病気に罹っているのかも知れません。


    

小海町の蝶(76)   ベニヒカゲとクモマベニヒカゲ

            
文/八岳晴耕・小池 一成
        
写真/八岳晴耕
        

  
         

昨年の夏、八ヶ岳でベニヒカゲを見たと紹介しましたが、
その公民館報が各戸に配られた直後に、
八岳師匠から「大変!」というメールが飛び込んできました。   
内容は、掲載した蝶の写真がベニヒカゲではなく、
クモマベニヒカゲではないかというものでした。
       

あわてて写真と図鑑を見比べると、
確かにクモマベニヒカゲのようです。
すっかり動揺した私は次号で訂正をしなければと思いましたが、
暫らく時間が経ち、
冷静に振り返るとやはりベニヒカゲでいいのではという気がしてきました。
       

その理由は撮影した場所にあります。 
八ヶ岳では、蝶が近くに止まらない為、撮影ができなかったので、
後日、小諸市高峰高原で撮影しました。 
この高峰高原から湯ノ丸高原の浅間山麓一帯にはベニヒカゲは生息していますが、
クモマベニヒカゲは生息していません。
どうしてもその事が引っ掛ります。
      

「ベニでもクモマベニでもどっちでもいいじゃない。
師匠で年上の人の言うことはきいておけば」と皆さんは思うかもしれませんが。
いずれにしても、両種のちがいを紹介した方がいいと思い、
忙しい八岳師匠にお願いしました。
         

八岳:後翅表面の眼状紋が写真左の様によく見えなければベニ、
写真右の様にハッキリ見えればクモマベニです。
         

★:地球温暖化により生息域に乱れが出て来ているのかも知れませんね。

       


    

小海町の蝶(77)   ツマグロヒョウモン

文・写真/小池 一成

監修/八岳晴耕
          

 今年の8月、小二のハルナが庭の方を指しながら「きれいな蝶がいるよ」と呼んでくれました。草取りが追いつかない庭先には、ツマグロヒョウモンのメスがせわしく翅を動かして舞っていました。その2日後には、オスも同じ場所にやって来ました。 オスについては、3年前に当時小三のリョウタが採集して、八岳晴耕師匠により「小海町の蝶(59)」で「なんの変哲もないチョウに見えるが南方系で珍しい」と紹介していただきました。

 その後、豹柄のオスと違ってエキゾチックな模様のメスを探し回りましたが見つけることができずにいました。何とか採集したいものだと、子供達に懸賞金をつけて指名手配をしましたが、結局、今年まで採集することができませんでした。 しかしながら、一度見つけると、よく目にするようになるもので、川上村と小諸市でも続けて採集することができました。

 10年程前までは、新聞種になるほど、珍しかった本種ですが、今では長野県中に生息分布を広げつつあるようです。 私が自分の庭で見つけたのですから、町内で、他にも目撃している人がいると思います。西馬流では、モンキアゲハを見たという話しも聞きます。皆さんも見慣れないチョウを見かけたら、ぜひ情報の提供をお願いします。懸賞金はでませんけれど。

     

       

小海町の蝶(78)  アサマシジミ

文・写真/小池 一成

監修/八岳晴耕

   

    

 明けましておめでとうございます。

 新年にふさわしくおめでたい蝶の話がよいと思ったのですが、見当たらないので、名前が佐久地域に関係するアサマシジミを紹介します。

 漢字で書くとたぶん浅間蜆蝶となるのだと思いますが、アサマシジミのアサマは浅間山からきているのだと思います。だからと言ってこの地域だけに生息しているわけではなく、北海道及び本州に分布していますが、本州では関東・中部の山地帯、浅間山麓や北アルプス東側などにしかいなく人気の高い蝶なのです。

 小海町内では、東馬流、親沢の県有林、溝ノ原で計4頭を採集していますが、いずれも1頭若しくは1ペアしか確認できておらず、生息地は極地的で生息数もとても少ないと思われます。

 実は、生態の写真を掲載したいと思い、成虫が羽化して現れる6〜7月に、以前採集した場所を中心に探し回ったのですが、結局見つけることができずに標本の写真となってしまいました。 

 本種はヒメシジミ(「小海町の蝶」(24)参照)によく似ていますが、オスの翅の色は濃い空色で、なんとなく凛とした感じを受けます。見分ける特長は、専門的になりますが、後翅裏面の1a室に黒点があればアサマ、無ければヒメシジミです。最近では、大切にしたい蝶の一つです。

     

小海町の蝶(79)   アサマイチモンジ

文・写真/小池 一成

監修/八岳晴耕
        


          

 前号のアサマシジミに引き続いて「アサマ」の名がつく蝶「アサマイチモンジ」を紹介します。

 本種はイチモンジチョウ(参照「小海町の蝶?74」)によく似ていて、黒い翅を広げると白い一という文字が描かれています。この2種類の見分け方は難しくて、前翅表面の外縁近くにある白紋の大きさや並び方で同定するのが一般的ですが、私の様な駆け出しの「蝶屋」にはこの方法での判断に自信がなく、一度捕虫網に入れて後翅裏面を見て判断します。後翅裏面の白紋より内側の中ほどに走っている2本の斜線が平行ならばイチモンジチョウで、下方が近付いているものがアサマイチモンジです。

 「浅間」の名が付いていますが、これは本種が浅間山で発見されたのに因んでついているようで、生息分布は本州全域です。

 生息数はイチモンジチョウよりずっと少ない上に発生の時期がほぼ同じ初夏から夏にかけてですので、イチモンジチョウの中からアサマイチモンジを探し出すという感じで、昨年の8月にやっと1頭採集できました。

 話は変わりますが、昨年の暮れに小海小学校で蝶の話をする機会をいただき、その折にヒメギフチョウなど生息地が局地的な蝶を探してくれるようお願いしましたので、春になったら子供達から元気な情報が届くかもしれないと楽しみです。

      

小海町の蝶(80)   キタテハ

文・写真/小池 一成

監修/八岳晴耕

     
   

   
生き物の中には、とてもよく似ていて、どちらなのか区別するのに、迷う種類があります。キタテハとシータテハ(参照「小海町の蝶」?72)も似ていて見分けるのに迷うことがありますが、シータテハの方が翅の縁の凸凹が大きく、パッと見て手袋みたいな感じがします。

しっかりと見分けるポイントとしては、キタテハの方には、前翅表面1B室と後翅亜外縁沿いの黒紋上に青色の鱗粉がありますが、シータテハの方には、その青色鱗粉がありません。

タテハチョウって、変な名前だなと思い調べてみると「立羽蝶」という意味でとまった時に翅を広げず、閉じて立てていることが多いことからついたようです。

タテハチョウの仲間には翅の色が名前についているものが多くあります。オオムラサキ、コムラサキ、アカタテハ、ルリタテハ・・・そして、キタテハ。

実際の色は黄色というより、黄土色や茶色に近い色をしていますが、オウドイロタテハとかチャタテハと呼ぶより、やはりキタテハって呼ぶ方が語呂がいいのでしょうね。

キタテハには夏に蝶になる夏型と秋に蝶になる秋型がいますが、秋型は成虫(蝶の姿)のままで冬を越します。

春が遅い小海町でも3月の暖かな日には、ヒラヒラ舞う姿を見かけることがあります。