小海町の蝶  第7集
    

 小海町の蝶(61)  ゴイシシジミ

  文・写真 八岳晴耕

    
 

 
 ついこの間の、七月二四日の午前の事である。町に出掛けようと思って、愛車ジムニーのエンジンキーを捻り、ギアーをバックに入れた時の事である。我が家のお向かいさんのクマザサの上を、一頭のシジミチョウがチラチラと飛んでいるのが眼に入ったのである。
 「ン・・・・?」


 長年の経験から、筆者はエンジンを切ると、その蝶の方に「抜き足、差し足、忍び足」で、ソッと近づき次に、その蝶がクマザサの葉の上に翅を閉じて静止するのを待って、更に近付いてよく見ると、白地に黒い碁石をちりばめた様な紋様。
 言わずと知れたゴイシシジミの裏面の斑紋である。
 次の瞬間、筆者は、静かに後ずさりし、蝶が驚かない距離まで離れると、一目散に、自宅の玄関までとって返し、捕虫網を引っ掴むと、再度、先刻のクマザサの所まで引返し、そのゴイシシジミをネットに収めたのが写真の蝶である。

   
 ところで、このゴイシシジミであるが、県下では、ほぼ全域に分布しているようであるが、どの地でも、比較的お眼に掛かりにくい蝶で、事実、上の写真の蝶が、筆者が小海町でネットインした最初の個体である。
       

 東京近郊での発生は、五月下旬から秋口にかけてであるが、この辺りでの発生は、六月下旬あたりからではないかと思います。

 最後になりますが、上の写真は、裏面の写真です。

    

    
 
小海町の蝶(62)   アオスジアゲハ

       
文・写真 八岳晴耕

 
 今年の八月中旬、
松原湖畔でクラフトフェアが開かれた日の午後、
キャリフールセンターで駄弁っていた
筆者の、ポケベルが鳴った。

 携帯電話を開くと、
芦平の中嶋建設の奥様からの電話であった。
広いお庭の中にある中嶋さんのご自宅には、
周囲に隣接している家もないためか、
色々な蝶が家の中に飛び込んで来るようである。

今日もそう。
「はい、宮ですが」と答えると、
「こんにちは」と前置きした後、奥様は、
黒地に青い線の入ったちょっと大型のチョウが飛んで来たので、
捕まえてあるから良かったら見に来て下さい
という話である。

 正直な話、
奥様のこのひと言を聞いた瞬間、筆者は 
(え?なぜアオスジアゲハが、小海町にいたんだ?)
とひどく驚いたものである。
「分かりました。すぐ行きますから、絶対に逃がさないで下さい!」
 携帯電話に向って、そう大声で叫ぶと、
筆者は、席を立つや否や、横っ飛びに表に飛び出し、
愛車ジムニーを駆って、
芦平に急行したものである。

 この日、奥様から頂戴したのが、
暖かい近隣の隣接県からの迷蝶としか考えられない、
写真のアオスジアゲハである。
勿論、小海町に於ける、この蝶の記録は今回が初めてであるが、
地球温暖化が叫ばれている今日、
改めて貴重なデータをご恵与下さった奥様に、
深く感謝する次第であります。

     

        

     

  小海町の蝶(63)   エゾスジグロシロチョウ
          

  文・写真 八岳晴耕

 
 皆さん、
明けましてお目出度う御座います!!
 この「小海町の蝶」シリーズを書き始めてから、
九回目のお正月がやって来ました。
月日の経つのは、本当に早いですね?
今年も又よろしくお願い致します。
      

 さて、今年の第一号の蝶は、
エゾスジグロシロチョウという蝶で、春から秋まで、
皆さんのお家の周りでごく普通に見られる蝶です。
        

 もしかすると、皆さんは上の写真の蝶は、
モンシロチョウではないの? と思うかも知れませんが、
この蝶は、エゾスジグロシロチョウという、
全く別の種類の蝶なのです。
       


 では、ここで皆様に一つの事を憶えて頂きましょう。
 まず、上の写真の蝶の前羽をよく見ると、羽の地に走っている筋(すじ)が
黒っぽいのがお分かりになるでしょう。
この筋が黒っぽければモンシロチョウではありません。
今回のエゾスジグロシロチョウか次号で紹介する、
スジグロシロチョウのどちらかです。
        

 でも、ここから先の、
エゾスジグロシロチョウとスジグロシロチョウの見分け方は、
書くのを止めに致します。
 それは、もう余りにも複雑で、かなり経験を積んだ人でも、
見分けがつきにくい場合があるからです。
       

 という訳で、新年早々、
複雑な話になってしまい申し訳ありませんが、
とにかく、今年もヨロシクお願い致します。

         

      

  小海町の蝶(64)   スジグロシロチョウ

      
文・写真 八岳晴耕
        

   

 
 前回のエゾスジグロシロチョウに続いて、
今回はスジグロシロチョウをご紹介致しましょう。
もし、お手許に前号の小海町公民館報四一三号がございましたら
二四ページのエゾスジグロシロチョウの写真と、
今号のスジグロシロチョウの写真を比べてみて下さい。

    
皆さんは、この二種類の蝶がとても良く似ているのが
お分かりになることと存じます。
それでも、よく見れば前翅の亜外縁の中腹にある黒点が、
前号では「丸っぽく」、
今号では「複雑な形をしている」などの特徴がある為に、
この二つの標本の種が違う、という事を、
ある程度はご納得頂ける事と存じます。

  
 ここまでの説明ですと、
この二つの種を見分ける事は、
そんなに難しいように思えないかも知れませんが
実際には、春型・夏型の違いによる両種の違いは複雑で、
しばしば、裏面の斑紋や翅脈を参照する必要があったり、
場合によっては匂いを嗅いだりすることもある程です。

    
 その上、昨年八月に発行された、
学研の日本産蝶類標準図鑑によりますと、
この複雑なエゾスジグロシロチョウとスジグロシロチョウの他に、
第三のヤマトスジグロシロチョウなる種が紹介されているので、
改めて、スジグロシロチョウ族の勉強を
し直さなければならないと、思い直している昨今です。
たかが蝶も一筋縄には行かないようです。

                 

      

  小海町の蝶(65)    モンシロチョウ

  文・写真 八岳晴耕

      

     

 
 モンシロチョウと言えば日本の蝶の中で、
とにもかくにも、名前だけは私達に一番良く知られた蝶のようです。
ここで筆者が、「とにもかくにも」とわざわざことわったのは、
前二号で紹介したスジグロシロチョウ族二種を
モンシロチョウだと思っていらっしゃる方が大変に多いからです。
 

 ちなみに、前号と前々号に掲載された、
前二種の写真と、今号のモンシロチョウの写真とを
比較して頂ければ、結果は一目瞭然。
スジグロシロ族二種の翅脈は黒っぽいのに対し、
モンシロチョウの翅脈は翅の地色と同じ白色である為、
翅全体が白っぽい感じがすることがハッキリとお分かり頂けると思います。
以上が、モンシロとスジグロシロチョウ族二種の区別点です。

      
 ここで、話は変りますが
次回より、この「小海町の蝶」シリーズの執筆を、
筆者から、馬流元町の小池一成さんにバトンタッチ致したく
考えておりますので宜しくお願い致します。

 

 小池さんは、三年程前、
お子様の夏休みの宿題の昆虫採集を手伝われた際、
県の林務課に勤務され、
野鳥に大変詳しい方であった為か、
ご当人の方が蝶に狂いだし(失礼!)、メキメキと実力を上げ、
一昨年はご自身が小海町産初のアオバセセリを
このコーナーで発表されたという、
見事な経歴の持ち主です。
引き受けて下さった一成さんのご厚意に
深く感謝いたします。
     

         

    

   小海町の蝶(66)   スミナガシ

       
文・写真/小池 一成

監修/八岳晴耕
      


       

今回から、このコーナーを担当させていただくことになったが、
正直、蝶について詳しいわけではない。
    

師匠と仰ぐ八岳晴耕氏に監修をお願いし、
町民の皆さんからも情報やご意見をいただきながら、
小海町の豊かな自然の一片を書いていきたいと思う。
      

「墨流し」この渋い名前、
そして、その名前の由来となった深い紺色に白い幾何学的な模様がついた羽。
小海町では主に6月初旬に見られ、
年数回しか出会えないことから生息数は多くなく、少し珍しい。
そして、少し変わっている。
何が変わっているかと一言でいえば、「其疾如風 不動如山」なのである。
       

晴れた昼間、茂来山など小高い山の頂上付近で、
なわばりを主張するためにアゲハ蝶に負けまいと猛スピードで飛びまわっている。
とても捕まえる事などできず「其疾如風」である。
また、ある時は沢沿いの道端で
ネズミなど小動物の死骸に取り付き赤い口吻を伸ばして食事をしている。
このときのスミナガシは、
テレビゲームをやっている子供のようにすごい集中力で警戒心もほとんどなく、
捕虫網で覆いかぶせても飛び立とうとしない。
       

一度は東馬流の砂利道の真ん中で、
干からびかけたヒキガエルにとまっている上を気付かずに車で通り過ぎたことがあったが、
なんとそのままの姿勢で食事を続けていた。
まさに「不動如山」である。

        

     

      

小海町の蝶(67)   ヤマキチョウ

    
文・写真/小池 一成

監修/八岳晴耕


    

オスは山吹色に近い黄色、メスは薄いクリーム色で、
オスメス共に前翅、後翅の表に橙色の斑点が一つずつ付いていて、
とても清楚な感じの蝶である。 

   
以前、八岳晴耕師匠から「ヤマキチョウ採集した?」
と聞かれたことがあったが、やはり小海町では見つけにくい種類の一つだと思う。
その理由としては、そもそも生息数が多くないのに加えて、
スジボソヤマキチョウ(「小海町の蝶(58)」参照)という
色、形、大きさがそっくりの蝶がいるからである。

    
両者の見分け方は、
前翅前縁が桃色に細く縁取られているかいないかで、
いる方がヤマキチョウである。
両種とも夏に成虫になり、蝶のままで越冬する。

    
スジボソヤマキチョウは、
他県での採集経験がほとんどない私が、
胸を張って全国有数の産地と言いたいほど小海町では数が多い。
それだけに、ヤマキチョウが見つけにくいのである。

   
ヤマキチョウを探すために、
一度捕まえてみて、違えば放すことを繰り返していたが、
ある時、飛んでいる個体を一目で見分ける方法があることを知った。

    
春先のスジボソヤマキチョウはいかにも厳しい冬を越えて来たようで、
翅にシミができ、所どころ破れているのに対して、
ヤマキチョウの方はもぎたての蜜柑のように新鮮な黄色で、
シミも破損も色あせもほとんどしていない。
不思議だが本当なのである。
 
 

小海町の蝶(68)  ウラナミシジミ

  文・写真 小池一成

監修 八岳晴耕

     

    

ウラナミシジミを一言でいうと「開拓者」だろうか。最初にこの蝶を見かけたのは、2年前の10月軽井沢町の草むらだった。

ここにいるのなら小海町にもいるかもしれないと思い、1頭1頭見分けていくと、東馬流の畑の土手で案外と簡単に見つけることができた。花や草の間をチョロチョロ飛び回るシジミチョウの仲間は、翅の表の色が青紫か黒、裏は斑点模様のものが多いが、この蝶は、名前のとおり裏側が波の模様をしていて一目で区別ができる。

昨年は残念ながら1頭も見つからず、年により発生の変動が大きいのかと不思議に思い調べてみたところ、この蝶は、1年の間に世代交代繰り返しながら旅をすることがわかった。

春から旅を続けているのか、夏の終わりから一気に北上するのか詳しいことは分らないが、関東や東海など温暖な地域で発生したものが、旅を続け県境を越えて、秋にやっとこの小海町へたどり着くらしい。しかしながら冬を越すことができずに、次の年にまた同じような旅を一から始めているのである。

旅の目的は生息分布域の拡大のためと考えられる

が、地球の温暖化防止が叫ばれている現在、ダメモトで無謀とも言えるこの戦略が大当たりしてしまい、この町でも冬が越せるようになった時には、今年の猛暑どころでは

すまない状況となっていることだろう。

   

    

小海町の蝶(69)   ベニヒカゲ

    
文・写真/小池 一成

監修/八岳 晴耕
       


        

7月末、小学校5年生恒例の中山登山・白駒池キャンプに
息子が行って上機嫌で帰ってきた。
余程楽しかったのであろう実家の祖父へ報告に行き
調子に乗って天狗岳への日帰り登山を約束してきてしまったと言う。
80歳と二人だけで行かせるわけにもいかず、
仕方なく同行することとしたが、
高山蝶を見るよい機会だと内心ほくそ笑んでいた。

    
お盆の中日、ペルセウス座流星群だろうか流れ星がまだ数えられる暗がりの中を、
稲子湯の上から歩き出し、
みどり池を通って中山峠から天狗岳へ。
帰りは、夏沢峠、本沢温泉を経由しみどり池を通って下山した。
全行程で蝶は
ベニヒカゲとキベリタテハ2種だけであったが、
北アルプスなどの眺望を堪能できた。

    
ベニヒカゲは
中山峠直下の開けた草地と天狗岳から根石岳へ向かう鞍部で見かけたものの、
じっくりと観察することはできなかった。
しかし、ジャノメ蝶特有の地味な茶色に赤橙色の模様が見え
ベニヒカゲにまちがいないと確信した。

    
本種は県天然記念物で一般に採集することはできないが、
北アルプスの八方尾根や湯の丸高原など標高2,000mの高原ではよく見ることができ、
キャベツ畑のモンシロチョウの如く舞っている。

     
写真は後日高峰高原で撮影したもので、
小海町における撮影とその他の高山蝶探しは来年の楽しみへと持ち越しになりました。

    


小海町の蝶(70)  ツマキチョウ

文・写真/小池 一成

監修/八岳 晴耕

   




新春のお喜びを申し上げます。

春の蝶といえば、やはりツマキチョウだと私は思う。

梅の花から桜の花へと季節が移る4月中旬頃、小道の脇などで頼りなさそうにフワフワと舞っている。

オスは翅の先が黄色くとてもチャーミングな感じがする。図鑑では翅を広げた大きさを記入するためにモンシロチョウと同じか少し大きい数字が書かれているが、実際に野外で受ける印象は、モンシロチョウより一回り小さい。

東馬流の田んぼの畦、溝ノ原の休耕田、八那池の共同精米所「利用部」、茂来山の登山道の中間あたりなどちょっとした原っぱがあれば生息できるようで、5月下旬頃まで小海町全域で普通にみられる。

 しかしながら、アニメのトトロのように、大人には見えないか又は見えにくいようである。一般的に大人より子供の方が虫好きだが、それも小学校の中学年くらいまでで、それ以降は成長するとともに、虫嫌いになったり関心を持たなくなったりする。その頃までに、この蝶と出会わなければ、その後は見えないか、見えてもモンシロチョウだと思い込んでしまうようだ。

 ツマキチョウが現れるまで、あと3か月半。ぜひ、今年の春はこの蝶に気付いてほしい。ぽかぽか陽気の中、タンポポにとまるこの蝶を見かけると、得をしたような気分になれるから。