小海町の蝶  第5集

     

小海町の蝶(41)  ギンイチモンジセセリ

文・写真   八岳晴耕

   
   

    

  ギンイチモンジセセリは明るい草原の蝶です。
 ・・・そして、やわらかい日差しの当たった初夏の草原をパラパラと飛ぶこの蝶の姿は実に印象的です。
 といいますのは上の写真で見る様に、この蝶の翅の表面は黒一色という味気の無い紋様をしているのですが、ひと度、この標本をひっくり返して裏面を覗いてみますと、前翅は全体的に
余り目立たない暗褐色をしているのに、後翅は黄褐色地の中央によく目立つ太めの銀色の帯が一筋あるため実際にこの蝶が飛ぶと、その銀色の一文字紋様がパラパラと目立ち、小さな小さ
なヘリコプターが草原を飛んでいるように見えるからなのです。
 ところで、開長(蝶が翅を開いた時の最大幅をいいます)約二六ミリのこの標本のデータを見ると、採集日は一九九八年六月十日となっているように、長野県下に於けるこの蝶の出現期
は、おおよそ五月下旬から七月上旬までの約一ヵ月半程に絞られているようです。
 普段は形が小さい為に、余り目に付かない蝶ですがこの蝶の食草がススキ、オオアブラススキ等だという事が分ってしまうと、その
飛び方故に、この蝶は結構見つけ易い蝶だと思います。
 ですから、お近くの乾燥性のススキ原を歩き回ってみて下さい。もしかするとまだ生き残りの可愛らしいヘリコプターが何機か飛び
出すかも知れませんから! 

(2003-07-25 小海町公民館報 第 391 号に掲載)  

小海町の蝶(42)  コチャバネセセリ

文・写真   八岳晴耕

       

      

  一九九二年七月二二日大幹線林道八ヶ岳線で採集したのが写真のコチャバネセセリのメスです。
 その年の真夏、当時勤務していた会社から九連休のフレックス休暇(交代制夏休み)を貰った筆者は、もう嬉しくて、築後四年の別の荘地のヒュッテ(山小屋)に飛んで来た訳ですが、その四日後、上記の大幹線林道で出遭ったのが、このコチャバネセセリです。
 と申しましても、このコチャバネセセリが特別に珍しい蝶という訳ではありません。南は九州、北は北海道まで、平地・山地共に見受けられる普通種です。
 ただ、この蝶は、その飛び方が素晴らしく速いため時折り道端の野の花にピュッととまって、気忙しげに花の蜜を吸っているのを見ると「ああ、夏だな!」という想いを新たにするする為、筆者にとっては、とても印象の深い蝶なのです。
 蝶の大きさは開張約二四ミリと小ぶりですので、チョット気が付き難いかもしれませんが、ごく普通の蝶ですので、十中八九、皆さんのお宅の草花にも飛来し来ていると思います。
 それから、この記事が皆さんのお手元に届く頃にもこの蝶はまだまだ元気でおりますので、是非気を付け
てご覧になって下さい。
 ちなみに食草はクマザサやシナノザサなど。小海町に於ける発生は、六月から9月終わりくらい迄の年一

回だと思われます。

   
(2003-09-10 小海町公民館報 第 392 号に掲載) 

    

小海町の蝶(43)  ウラジャノメ

文・写真  八岳晴耕
    


      

 ウラジャノメは、ご覧の通り、翅の亜外縁にハッキリとした蛇の模様が沢山見られるため、一見、派手な感じを受けますが、性格
的には林やその周辺の薄暗い環境を好む地味な蝶といえると思います。
 クマザサを林床に敷き詰めたカラマツ林がアチコチに散在する小海町の我が家の周辺には、本来ならばあまり蝶がいない筈なのでが、それでも、夏休みが始まり、子供たちの明るい声が聞こえる頃になると、どこからともなくこの蝶が現れて、散歩中の筆者をひどく驚かす事があるのです。

 ウラジャノメの成虫の出現は年一回。標高の低い所では六月上旬から出始めますが、標高の高い小海町では七月の始めあたりから成虫が出始め、八月の中旬くらいまで見受けられる事が
あるようです。
 ところで、蝶といいますと、一般的に蜜を求めて花に集まるものと考えられているようですが、筆者はこの蝶が花の蜜を吸っている
のを見たことがありません。
 筆者が目撃した殆どの例は、林縁のササや草の葉の上にとまっている姿が殆どで、稀に、小さな水溜りの周辺や何かの動物の糞にとまっているのを目にしたことがある程度です。
 写真の蝶は一九九二年七月二六日、我が家の近くのカラマツ林の林縁で捕まえたメスの標本です。尚、最後になりましたが、食草はヒカゲスゲ等の植物です。

 

         
(2003-10-20 小海町公民館報 第 393 号に掲載) 

    

   

小海町の蝶(44)  ミドリヒョウモン

文・写真   八岳晴耕

   

       

 今回紹介しますのは、タテハチョウ科のミドリヒョウモンです。ミドリヒョウモンを漢字で書きますと、緑豹紋となりますが、豹紋の名前が示す通り、翅の表面は橙色の地に黒点をあしらった、あの獰猛な豹の毛皮の紋様によく似ているために、こんな名前が付けられたのだと思います。
 最初の漢字の緑は、翅の裏面の銀色と緑色のストライプが全体的には、緑色に見えるために付けられた名前だと思います。
 実は、この蝶の他にも、同じような豹紋を持った蝶が何種類かいるのですが、そのうち、そういった種類の蝶も紹介したいと考えています。
 ところで、このミドリヒョウモンですが、全国的に見ますと、ヒョウモン類の中では、このチョウが一番数を増やしているという話を小耳に挟んだ事がありますが、事実、我が家の庭に咲いている蝶の沢山集まることで有名なブッドレアの花に集まって来るヒョウモンの仲間では、このミドリヒョウモンが一番多い事を見ても、その事実が頷けるのではないかと思います。
 この美しい蝶が好む棲息環境は、山地や亜高山の雑木林の林縁周辺。信州における出現期は、六月中旬くらいから九月中旬くらい迄。
 食草は、スミレ類。越冬態は初令幼虫です。なお、最後になりましたが、写真の標本の採集日は一九八三年八月二日でした。

(2003-11-25 小海町公民館報 第 394 号に掲載) 

    

小海町の蝶(45) ウスバシロチョウ
    

文・写真   八岳晴耕
    

     

 皆さん、明けましてお目出度う御座います。この「小海の蝶」シリーズもいつの間にか45回を数えるまでになりましたが、本年も
宜しくお願い致します。
 さて、今回登場致しますウスバシロチョウですが、この蝶は、殆んどの皆さんがご覧になっていらっしゃるのではないかと思います。
 この蝶が、小海町で見られる様になるのは、ゴールデンウィークが終わった五月中旬から八月上旬くらい迄。その飛び方は、初夏の風に乗って、ユックリとしている為、子供でも簡単に捕まえる事が出来ます。
 ところで、このウスバシロチョウですが、羽が白っぽくて、形もそんなに大きくはないところから、モンシロチョウやスジグロシロチョウの仲間だと思われ勝ちですが、事実は、アゲハチョウの仲間なのです。
 それは、どうして分かるかと言いますと、ウスバシロチョウの幼虫を驚かせると、アゲハチョウの仲間の特徴である、角状の肉塊を頭部の後から、ニュッと出すからです。
 又、ウスバシロチョウは地域によって翅の色に変異があり、場所によってはウスバクロチョウと言いたくなるほど、翅の色が黒化し
た固体が見られる地方もあります。
 最後になりましたが、この蝶の食草はムラサキケマンやエンゴサクなどのケシ科植物。越冬態は卵となっています。    

(2004-01-01 小海町公民館報 第 395 号に掲載)

    


小海町の蝶(46) キチョウ
 

文・写真    八岳晴耕
 


    

 私事で恐縮ですが、筆者は黄色という色が大好きです。黄色の中でも特に好きなのが明るい黄色。ですから、一度でいいから黄色い自動車を乗り回してみたいと思っています。
 そんな事も関係しているのでしょうか、筆者は、明るい黄色をしたこのキチョウという蝶が大好きです。
 小海町でも、都内の自宅付近でもそうですが、盛夏が過ぎたハギの花が咲く頃の散歩の折々に、この蝶が清々しいハギの花の周囲を飛び交っているのを見ると思わず足を止めて見入って
しまいます。
 ところで、皆さんは、同じ種類の蝶でも生まれて来る季節によって、翅の紋様が微妙に変化するのをご存知でしょうか? 
 このキチョウなんかも、その例の一つで、秋に現れて来る個体では、前翅表面外縁の黒褐色の紋様が殆んど無くなって、一見すると全面、真っ黄色に近い蝶になってしまいます。
 国内に於けるこの蝶の分布は、東北地方に於ける記録は数少なく、関東以西では八重山地方に至るまで広く分布しているようです。
 写真の標本の採集日は、一九九八年八月三日。採集場所はヒュッテ周辺となっています。
 小海町周辺に於ける生態は、年三〜四回程の成虫の出現がある模様。食草はネムノキやハギなど、主としてハギ科の植物を食しているようです。

         
(2001-09-01 小海町公民館報 第 376 号に掲載)
       

       

   
小海町の蝶(47) カラスアゲハ 

     
文・写真    八岳晴耕

       

  
        

 真夏の午前、斜めに射す陽光を背に、キラキラと青緑色に煌めきながら谷間の林道を颯爽と飛ぶ、大型の黒い蝶。

 お盆の頃の眠たくなるような午後のひと時、うな垂れた庭の山百合の花に静かにブラ下がり、物憂げに羽を震わせながら吸蜜に余念の無い、黒地青緑色の大きなアゲハチョウ。これが、今回、紹介致しますカラスアゲハです。

 普段、私達が小海町の中で目にする大型の黒い蝶には四種類の蝶がいて、その大半が、このシリーズの第一回目に紹介しました、ミヤマカラスアゲハか、このカラスアゲハのどちらかでまれにクロアゲハとかオナガアゲハを見掛ける事がございます。

 さて、小海町に於けるカラスアゲハの発生回数は年二回。小型で彩色が鮮明な第一化(春型)はゴールデンウイーク少し前から、六月下旬にかけて、形の大きい第二化(夏型)は七月始
めから十月上旬にかけて発生しているようです。

 写真の標本は一九八一年八月六日採集となっておりますので、その当時、毎年お世話になっていた民宿湖水荘さんに泊まらせて頂いた際、松原湖周辺で捕獲したものだと思われます。

 カラスアゲハは沖縄本島を除く日本各地に棲息しており、特に山地帯の渓谷に多く見られます。植樹はキハダ、コクサギ、サンショウなど。越冬態は蛹です。

   (2004-04-20  小海町公民館報 397号に掲載)

     

     

小海町の蝶(48) アカタテハ

     
文・写真    八岳晴耕
   

    

    

 アカタテハは斑紋がハッキリとした綺麗な蝶です。
 茶褐色の地に、明るい橙色が美しく、ふらりと出掛けた散歩の折々など、道端のコスモスの花で吸蜜中のこの蝶を見付けると、思わず忍び足でその場に近付き暫らくの間、この蝶の美しいコントラストの紋様に見惚れてしまいます。

 このアカタテハは、小海町の我家「ヒュッテ」でも時折り見掛ける蝶です。 発生回数は年二、三回の様ですが、成虫越冬をする為か、季節が暖かくなった比較的早い時期に、我家の
薪小屋の近くでこの蝶に出会い、思わず目を瞠ることがあります。

 ヒュッテの薪小屋は、何種類かの蝶達の越冬地として利用されている様で、昨年の晩秋のこと・・・・筆者の見ている前で、薪小屋の床を這っていた一頭のキタテハが、トンネルのようになった薪と薪の隙間に入って行くのを目にした事があり、聊か驚かされました。

 ところで、前述の様に「ヒュッテ」でも時折り見られるこの蝶は、日本全土に広く分布しており、町内のあちこちの林道の水溜り近くでも吸水中の姿が時々見掛けられます。又猪名湖畔のヤマアジサイが咲く頃になると、他の蝶達に混ざってこの蝶が吸蜜して居る姿がしばしば観察されます。

 最後になりましたが、この蝶の食草がイラクサやケヤキ等である事を付言して筆を置く事に致します。

(2004-06-25 小海町公民館報 第 398号に掲載)
      

   

   
小海町の蝶(49) オナガアゲハ   

文・写真   八岳晴耕

       

 

 小海町で見られる黒っぽい大型の蝶として、今迄にカラスアゲハ(公民館報三九七号)とミヤマカラスアゲハ(同三五一号)の二種を紹介して参りましたが、実はこの他にもう一種の黒いアゲハチョウが、小海町には棲んでいるのです。それが、今回紹介致しますオナガアゲハです。

 公民館報のバックナンバーをお持ちの方には、上記二種の写真と今回のオナガアゲハの写真を比較頂きますと直ぐにお分かり頂けますが、今号のオナガアゲハの特長は何んと言っても、四枚の翅の形が細長いことと、後翅末端の尾状突起が長い事が挙げられます。

 話は変わりますが、小海町に於ける、このオナガアゲハの数は、前二種に比べるとやや数が少ない様ですが、この事は長野県全般に就いても言えるようです。

 それは、この蝶の代表的な食樹コクサギが、上記に種の食草に比べると、比較的に少ない事が原因となっているのではないかと筆者は思っています。

 ここで、皆様におねがいです。小海町には、今迄紹介して参りましたように、色々な蝶が棲んでいます。

 筆者の考えでは、場合によっては、百種類以上の蝶がこの町には棲んでいるのではないかと思います。

 もし、この様な事にご興味のある小学校5年生以上の方がいらしたら、ご連絡願えませんか?一緒に研究して参りたい思いますので。

   
      (2004-08-25 小海町公民館報 第399号に掲載)

 Label : Komurasaki   
   

        
 小海町の蝶(50)  コムラサキ

   
文・写真   八岳晴耕

    

 

 コムラサキ。
 美しい名前を持ったこの蝶は、見る角度によって、妖しく紫色に輝やく翅を持った不思議な蝶です。

 何故この様な色がこの蝶の翅に付いているのかと言いますと、翅に付いている鱗粉の色そのものが紫色をしているのではなく、鱗粉自体の構造が、光の屈折などにより、見る角度によっては、紫色に輝くような特殊な構造になっているからなのです。この為、この様な構造の鱗粉により作られる翅の色を、構造色と言う場合があります。
 ちなみに、この様に紫色に輝くのは雄(オス)だけで、コムラサキの雌の翅はどの角度から眺めても紫色に輝く事はありません。
 コムラサキは、中部地方全体でみると、そんなに珍しい蝶ではないのですが、この小海町ではどちらかと言うと、数の少ない蝶の様に思えます。

 写真の蝶(おす)は、一九九二年八月十四日、小海の自宅のヤマウドの花に飛来したものを採集したものですが、我家の庭でも、この蝶は、どちらかと言えば数少ない蝶の一つと言う事が出来ると思います。

 食草は、ヤナギ類ですので、千曲川の土手沿いに、生えているヤナギの周辺を探したら、もっと数多くのコムラサキが見付かるかも知れません。

 越冬態は幼虫。小海町では、発生回数は年一化の様に思われます。

    
(2004-10-20 小海町公民館報 第 400 号に掲載)