小海町の蝶  第4集

     

小海町の蝶(31)  ムモンアカシジミ

文   八岳晴耕
写真  小郷 毅

    
 

     

 「宮さん、小海町に、ムモンアカが居るのを知ってますか?」
 このひと言を聞いた瞬間、筆者は思わず驚きの声を上げてしまいました。
 「えーっ、ムモンアカア・・・ホントですか〜?」
 数年前の夏のこと、筆者に貴重な情報を知らせて下さったのは、橋本屋旅館の娘さんのご主人の中久木(なかくき)さんである。
 と言うのは、このムモンアカシジミという小さな蝶は、北海道、東北、中部、関東北部の山地に分布はしているものの、いずれの地でも、発生地は極めて局限されているため、おいそれとお目に掛かれる蝶ではないからです。
 この情報をもとに、その翌年の8月、長さ6メートルのつなぎ竿の捕虫網で、筆者が捕まえたのが、写真のオスの標本です。
 さて、このムモンアカシジミですが、公民館報364号で紹介しましたアカシジミによく似ていますが、ムモンアカシジミのオスの前翅端には、アカシジミのオスの前翅端に見られるような黒い縁取りが無いのが特徴です。
 本種の幼虫は、クロクサアリとの共生関係があるため、本種が発生する樹木はクロクサアリが好む樹木に限られているようです。
 小海町の発生地でも、この蝶が発生するのは、たった2本の木に限られているようです。こんな木は、是非共大切にしたいものです。

    (2002-04-01 小海町公民館報 第 381 号に掲載)  

小海町の蝶(32)  ジョウザンミドリシジミ

文   八岳晴耕
写真 小郷 毅

     
 

   

 6月も下旬に入り、木々の緑が初夏の陽射しに爽やかに照り映える頃になると、ゼフィルス(そよ風)と呼ばれる緑色の蝶の一群が、雑木林の林縁や樹冠付近を軽快に飛び始めるようになります。
 これらミドリシジミ類の羽化直後の新鮮な個体の羽の色は本当に美しく、蝶の採集に手を染めた人達の多くが、その新鮮な個体の収集に夢中になり、挙句の果ては、冬季、これらの蝶の卵を求めて山野を歩き回り自分で蝶を育てるようになってしまいます。
 かく言う筆者自身も、ミドリシジミ類の採卵にウツツを抜かし、我が家の冷蔵庫の中に、幼虫の食草になるミズナラ、コナラ、カシ
ワ等の新芽をたくさん蓄えこみ、家内の顰蹙を買った事も何回かございます。 
 さて、今回の、飛び古した固体の写真からは分り難いのですが、このジョウザンミドリシジミの雄の前翅は鈍い青緑色をしています。
 採集年月日は、一九七八年八月ニ日。場所は確か、美術館脇のオートキャンプ場から猪名湖に至る遊歩道の途中の、少し開けた雑木林だったと思います。
 ところで、皆様方の中でこういった緑色の蝶をご覧になった方は、余りいらっしゃらないのではないかと思います。
 と言いますのは、この緑色の一群の蝶達は、雑木林の比較的高い所に棲息している事が多いからです。

   
(2002-06-10 小海町公民館報 第 382 号に掲載) 

    

小海町の蝶(33)  オオヒカゲ

文・写真  八岳晴耕
   


   

 オオヒカゲはジャノメチョウ科の蝶ですが、このシリーズの中にジャノメチョウ科の蝶が出て来たのは、今回が初めてです。
 ジャノメチョウ科の蝶は翅表が黒褐色系の色をしていて、裏面に蛇の目紋があるのが特徴です。
 しかし、そのくすんだ色が禍したのでしょうか、可哀相な事に、かなり沢山の人達が、このジャノメチョウ科の蝶達を蛾の仲間だと
思っているようです。
 でも、この一連の蝶達は、れっきとした蝶の仲間なのです。しかも、このオオヒカゲは、その中でも、堂々とした大型の蝶で、筆者にとっては、今でも、この蝶に出会うと思わずゾクゾクッと身震いするほどに素敵な蝶なのです。
 小海町に、この蝶が現われるのは、七月中旬くらいから。以前は、松原湖高原オートキャンプ場のクマザサ原の中に沢山棲んでいたものでしたが、本州に於ける生息地は局限されるている所為か、笹原が小さくなった頃から、その数が少なくなり、最近では、その姿を見かける事が殆ど無くなってしまった事は、とても淋しい事です。
 写真の蝶の採集日は、一九七八年八月一日と、二四年も前。場所は、上記のクマザサ原の中でした。
 この蝶の食草は、オニスゲ、カサスゲなどのカヤツリグサ科の草類。越冬態はニ〜三齢の幼虫となっています。

         
(2002-07-25 小海町公民館報 第 383 号に掲載) 

    

   

小海町の蝶(34)  モンキチョウ

文・写真   八岳晴耕
     


        

 モンキチョウは小海町の皆さんにも、広く親しまれている蝶ではないかと思います。と言いますのは、この蝶は、小海町のあちこちで、春先から秋口まで、ごく普通に見受けられる蝶だからです。
 ところで、誠にお恥ずかしい話なのですが、三十歳になって、蝶の採集を始めた筆者は、当初、このようなごく普通種の蝶すら、全
く知りませんでした。
 と言いますのは、筆者が生まれ育った、東京は国電中野駅の近くには、幼虫の食草となるウマゴヤシ、ミヤコグサ等が余り見受けら
れなかった為ではないかと思います。
 ですから、その後、郊外の草原で、この蝶を初めて見た時の筆者はもう嬉しくて嬉しくて、ただただ夢中になってこの蝶を追い掛け
回したものでした。
 写真の標本はオスですがメスはもっと白っぽい翅の色をしています。
 しかし、メスの中には、オスと同じ様に、黄色の翅を持ったものもいるから、少し事は厄介です。
 さて、この蝶の分布は北は北海道から、南は八重山諸島までと極めて広く、暖かい地方では、年五〜六回寒冷地では三回程度、発生を繰り返している様です。
 幼虫は、先ほど紹介致しましたウマゴヤシ、ミヤコグサの他にも、皆様よくご存知のレンゲ、アカツメクサ、シロツメクサなども食べているようです。

(2002-09-10 小海町公民館報 第 384 号に掲載) 

    

小海町の蝶(35) ヒカゲチョウ
    

文・写真   八岳晴耕

     

    

 今号より、筆者の氏名を、本名の宮昭雄に代えて、ペンネームの八岳晴耕(やたけ・せいこう)とさせて頂く事に致しました。
 と申しますのは、筆者は八ヶ岳山麓のこの地が本当に好きでして、最近では自作のホームページをはじめとして、文章・詩・投稿など全てに、このペンネームを使っているからです。
 ペンネームの由来は、八ヶ岳山麓の地で、晴れた日は土に親しむ、の意味です。
 尚、町の中で筆者に声を掛ける際には、宮昭雄・八岳晴耕の何れの名前をお使い頂いても構いません。
 さて、今回のヒカゲチョウは、前々回のオオヒカゲに続いて、二頭目のジャノメチョウ科ヒカゲチョウ族の蝶です。
 成虫の蝶が見られるのはクヌギ林や、その周辺などで、飛翔はとても早い。 又、吸蜜の際は、花を訪れる事は滅多になく、樹液
や腐った果実などに集まることが多いようです。
 写真の標本の採集日は、一九七七年八月五日となっていますので、筆者が一家三人で初めて松原湖を訪れ湖水荘さんにお世話になったときに採集した蝶だと思います。
 分布は、大雑把に言うと本州、四国、九州に分布しており、北海道には棲息していない模様。
 食草はメダケ、マダケ、クマザサなど。主として春と夏の年二回の発生。越冬態は四令幼虫です。
      

(2002-10-25 小海町公民館報 第 385 号に掲載)

    


小海町の蝶(36) キマダラモドキ

文・写真    八岳晴耕
 

   

    

 この蝶の写真をご覧になった方の殆どが「ナーンダ大した蝶じゃねえじゃんかい!」とお思いになったんではないかと思いますが、ドウシテドウシテこの蝶はなかなか採集し難い蝶なんです。・・・・って言いますのは、どの発生地でも、この蝶の発生地は、どちらかと言うと、狭い範囲に限られているからです。
 筆者が、小海町の中でこの蝶の姿を見たのも、たった一箇所で、松原の集落から小海町高原美術館にいたる山道の途中だけです。
 さて、この蝶が棲息している環境は、どんな所かといいますと、クヌギやナラ類などの疎林や明るい林を生活の場としている事が多
く、藪をくぐって飛ぶ事が比較的に多いために、なかなか捕まえにくい蝶の一つでもあります。
 発生は、場所によって少しづつ異なりますが、おおむね6月中旬から9月の上旬くらいまで・・・・
 筆者が、上の写真の蝶を捕まえたのも、一九八一年八月五日の事でした。
 さて、ここで筆者からの
お願いです。もし町民の皆様方の中でこの蝶をご覧になった方がいらしたら、是非、筆者宛にご連絡(電話は93−2675です)頂ければ幸いです。誰も電話にでなかった時は、留守電にお名前と連絡先を記録しておいて下されば、後刻コチラの方からご連絡を差し上げる所存です。 宜しくお願い致します。

         
(2002-12-02 小海町公民館報 第 386 号に掲載)
       

       

   
小海町の蝶(37) ジャメチョウ

     
文・写真    八岳晴耕

       

  
         
 

 皆さん、明けましてお目出度うございます。
 筆者が小海町の蝶について書き始めてから、今年で六年目に入ります。月日の経つのは、本当に早いものだと思います。
 さて、今回皆さんに紹介しますのは、ジャノメチョウという、ススキの草むらが大変に好きな蝶です。夏が来て、ススキの原っぱを歩いて行くと、この蝶が何匹も草むらから飛び出して来るので、皆さんも、もう、よくご存知の蝶です。
 ところで、去年の夏の事ですが、黒っぽい色をしたこの蝶と、あの色の白いモンシロチョウの標本を見くらべていた、筆者の友人が言いました。
 「そうか、分かったよ。この色の白いモンシロチョウと、この色の黒い蝶との違いは、われわれ人間の白人と黒人の違いと同じだよねエ?」
 「え?」
 彼の言葉を聞いた瞬間、筆者は、思わず聞き返してしまいました。
 と、言うのは、モンシロチョウとこのジャノメチョウの違いは、われわれ人間とチンパンジーくらいも違うからです。
 その事を、系統図を書いて説明しましたら、成る程と、その友達は、ひどく関心していました。
 話は、横道にそれてしまいましたが、長野県で、この蝶が見られるのは、ほぼ七月初旬から、十月下旬くらい迄、食草はススキやス
ズメノカタビラ等です。

   (2003-01-01 小海町公民館報 第 387 号に掲載)

     

     

小海町の蝶(38) ツマジロウラジャノメ

     
文・写真    八岳晴耕

 



 筆者が、個体数が少なく稀にしかお目に掛かれない写真の蝶を捕まえたのは一九九一年の秋の事でした。
 夏から秋にかけて小海にやって来ると越冬用の薪割りに追われる筆者は、その日も、何本もの間伐材と取っ組み合いをしていました。 
 そう、あれは午後の3時頃だったでしょうか、家内が入れて呉れたお茶を飲みながら一息ついていると、門の脇の石垣の近くを一頭
のジャノメチョウが飛んでいるのに気が付きました。
 ところがです。
 その蝶がチラリと日向に飛び出した拍子に、羽の先の方が白く光ったのです。
 「ん・・・・?」
 瞬間、ギクリとした筆者が玄関先に置いてあった捕虫網をひっ掴んで、その場に急行してみると、細い貧弱な草にとまっていたその蝶は紛れも無くツマジロウラジャノメだったのです。
 祈るような気持ちで網を横に振り、震える指先で圧死させた蝶を三角紙に包んだ筆者が、今まで蝶が止まっていた草を良く見た瞬間・・・・・・
 「あ、イワノガリヤスだっ!」と、筆者は思わず叫んでしまいました。
 そうです。
 この蝶は我が家の庭に少しだけ生えていた食草に卵を産もうとしていたのです。
 その事に気が付いた時、
 「何んと心ない事を!」と筆者は沁み々々と後悔しました。
 この標本には、そんな淋しい思い出が残っているのです。 

      
(2003-02-25 小海町公民館報 第 388 号に掲載)

   

   
小海町の蝶(39)  ダイミョウセセリ   

文・写真   八岳晴耕

    
 

      

 ダイミョウセセリは小海町のあちこちで見受けられる普通種の蝶です。
 特に松原湖周辺の林縁などで、よくお目に掛かる事が多いのですが、アザミの花が咲く頃になると、我が家の庭にも吸蜜にやって来る愛らしいお友達です。
 暑い夏の日曜日の午後など、涼しい木陰に椅子を持ち出してユックリと本でも読んでいる時に、この旧い友達が目の前のアザミの花にでもやって来ようものなら、筆者はもう読みかけの本を膝の上に置いたまま、暫くの間、ボンヤリと彼等の姿に見とれてしまいます

 と言いますのは、アザミの花頭で吸蜜中のダイミョウセセリは、少しづつジリジリと同じ花の上を這いまわり、暫くの間、次の花に飛んでいかないからです。
 もし皆さんが散歩の折々に、この蝶を見掛けられたら、暫くの間、観察してみて下さい。驚かさない限り静かな夏の風物詩を楽しむ
事が出来ますから。
 話は変わりますが、今迄公民館報で紹介して来ました「小海町の蝶」シリーズが、インターネットでも見られるようになりました。
 ホームページの(URL) は
 http://www.angel.ne.jp/~ptylitza です。

 ホームページを開かれたら、左端の CONTENTS の欄の「小海町の蝶」をクリックなさって下さい。
 現在は、最初の10種類だけですが、少しづつ登録数を増やして行く予定です。

   
      (2003-04-25 小海町公民館報 第 389 号に掲載)

    
    
 小海町の蝶(40) ミヤマセセリ

   
文・写真   八岳晴耕

    

   
 ミヤマセセリはほぼ日本全国に分布する早春の蝶です。東京近郷の平地では三月下旬くらいから発生し、四月にかけて個体数が増えて来ますが、ここ小海町ではゴールデンウイーク少し前から見られるようになります。
 最近では、冬が暖かくなってきた為か、ゴールデンウイークに、別荘地に霜がおりる事は比較的少なくなって来ましたが、以前はゴ
ールデンウイークでも、我が家の庭がバリバリだった事がよくあったものです。
 そんな寒い朝、白い息を吐きながら、散歩の折々、低く斜めに射す陽光を浴びつつ、枯れ切った草原のススキをバリバリと踏んで行
くと、あちこちに見受けられるのが、同じく早春の蝶のコツバメと、このミヤマセセリです。
 半年近くが冬という八ヶ岳山麓に、この早春の蝶が見受けられるようになると正直な話、本当にホッとした気持ちにさせられます。
 そして、ついつい心の中で
 「やあ、今年もヨロシクね!」
 と声を掛けたくなってしまいます。
 翅(はね)の紋様は、後翅(こうし)に黄色の斑点があり、前翅には薄い青白色の斑紋があります。
 食草は、ブナ科のコナラやミズナラなど。
 成虫の出現は、小海町辺りですと、4月下旬から7月末くらいまでの年1回。
 冬を終令幼虫で越し、越冬後に蛹化するようです。
   

(2003-06-10 小海町公民館報 第 390 号に掲載)