小海町の蝶  第2集

     

小海町の蝶(11)  オオムラサキ

文   八岳晴耕
写真  小郷 毅

    

    

 昨一九九八年七月十七日の夕方、ヤナショーホームに木ネジを買いに行った時の事である。
 入口を入ったトタン、店内にオオムラサキが飛んでいるのを見付けた筆者は、大声でこう怒鳴った。
 「虫取り網、貸して!」
 ・・・筆者の大声に驚いた女性の誰かが、気を効かせて貸して呉れた売物の捕虫網を掴むと、筆者はオオムラサキの後を追い掛けた。
 しかし、そのオオムラサキは壁にコツンとぶつかると、商品棚の後に落ちて見えなくなり、筆者は地団駄踏んで口惜しがった。

 それから四日後、またヤナショーホームに買物に行くと、高志店長が
 「さなえが、この間の蝶捕かまえときましたよ!」
 と言って、渡して下さったのが、採集日がキチンと分かっている写真のオオムラサキ第一号である・・・さなえちゃん、有り難う!

 オオムラサキはその名前の通り、大型で紫色をした日本の国蝶にも指定されている美しい蝶である。
 写真の様に紫色をしているのは雄だけで、チョコレート色をした雌は雄よりもふた回りほど大きい。

 植樹はエノキ。越冬態は幼虫で、エノキの落葉の裏に隠れているので有名。 筆者も落葉をめくっては幼虫探しをしたものです。

(1999-10-27 小海町公民館報 第 361 号に掲載)  

小海町の蝶(12)  コツバメ

文   八岳晴耕
写真 小郷 毅

    

       

 私が生まれた東京に比べますと、小海町の春は一ケ月以上遅いようです。
 ゴールデンウィークというと、東京ではもう初夏の日差しが射す日があるというのに、現在、私が住んでいる高原美術館近くの我が家の庭には、五月に入っても霜が降りる事さえあるのです。

 そのような気候の頃に、シジミチョウ科の蝶の中で一番早く出現するのが写真のコツバメです。
 道端の枯れススキを踏み付けると、バリバリと音がするような真っ白い霜が降りた朝、斜めに射す低い太陽光線の中を敏捷に飛ぶこの蝶を見付けると、本当に嬉しくなります。

 写真で見ますと、この蝶は大きくみえますが、実物は開張二五ミリ程の可愛らしい蝶です。
 この蝶の紋様は、淡い黒色の地色に藍色斑をあしらったシックなものですが、この蝶の特徴は、何んと言っても、後翅外縁がギザギザになっていることで、この事だけでも他のシジミチョウから簡単に見分けることが出来ます。

 写真のコツバメは昨一九九八年五月四日、我が家の庭で採集したものです。
 食草はツツジ科、スイカズラ科、バラ科、ユキノシタ科の植物の花、蕾、若い果実。越冬態は蛹です。

   
(1999-12-01 小海町公民館報 第 362 号に掲載) 

    

小海町の蝶(13)  ウラゴマダラシジミ

文  八岳晴耕
写真 小郷 毅
      


     
 ウラゴマダラシジミの大きさは開張約 42 ミリ。
 翅の表面は、紫白色の中央部が幅広い黒褐色でふち取りされた美しい蝶です。 
 翅の裏面は一面の純白色で、その外縁部には二列の黒点が色鮮やかに散布されています。そして、多分、この美しい二色の対比に感動した命名者が・・・この裏面の黒点を胡麻に見立てて、この蝶にウラゴマダラシジミという素晴らしい名前を付けたものと筆者は考えています。

 この蝶は、東京近辺では出現期の六月中旬から下旬にかけて、小海町付近では七月下旬から八月上旬にかけて、時折り、その可愛らしい姿が見受けられます。
      
 写真の蝶の採集日は一九九二年七月二五日となっていますが、毎年、七月下旬頃になりますと、町内の雑木林は素晴らしい深い緑に覆われるようになります。
 そのような盛夏七月下旬から八月上旬にかけての午後のひととき、涼しい雑木林の緑葉上で、翅を閉じて静かに憩うこの蝶の純白な姿を目にする時、筆者はハッとするような新鮮な驚きに包まれる事がしばしばあります・・・!

 食樹はイボタ、ミヤマイボタ、ハシドイなど。成虫は比較的渓流沿いの林縁を好み、午前中よりは夕方に活動することが多い様です。

         
(2000-01-01 小海町公民館報 第 363 号に掲載) 

    

   

小海町の蝶(14)  アカシジミ

文   八岳晴耕
写真 小郷 毅

       

    

 アカシジミは夕暮れのちょうです。お日様が西の空に傾き、雑木林がわずかに赤く染まる頃から、この蝶が林縁付近を飛び回ることが多いからです。
 梅雨入り間近の夕方のよどんだ空気の中、雑木林の緑の中をチラチラと飛ぶこの蝶には何んとも言えぬ独特の風情があります。

 筆者が写真の蝶を採集したのは、1998年6月18日。 採集場所は、猪名湖湖畔の松原館あと。
 採集時間は昼下がりの午後1時頃だったでしょうか、一本のカシワの木の周りを気だるそうに飛んでいたのを捕虫網に入れたのを憶えています。

 アカシジミは開帳約 30mm、表面は一様な橙色で前翅の外縁は黒褐色に縁取られ、雄と雌の紋様の違いは余りありません。
 発生は、東京付近では六月上旬ころの様ですから、小海町の発生時期は、東京とそんなに大幅にずれていないのかも知れません。
 この蝶の植樹は、コナラ、クヌギ、ミズナラ、カシワ等で、越冬態は卵。

 もう25年ほども前の初冬のこと、広島県の蝶友から可愛らしいボール紙の小箱に入れて送られて来たこの蝶の卵から幼虫を孵化させ、成虫まで飼育した経験は、とても懐かしい思い出となっています。

(2000-03-01 小海町公民館報 第 364 号に掲載) 

    

小海町の蝶(15)
    

文   八岳晴耕
写真 宮 興子

    

 今回は、蝶の話ではなく、標本作りのお話をする事に致しましょう。
 蝶の採集をするには、蝶を採集したあと、採って来た蝶を標本にしなくてはなりません。
 この標本作りと言いますのは、馴れないうちは、なかなか面倒臭いものです。
 まず、捕虫網で蝶を捕まえますと・・・・・・少し可哀想な気もしますが・・・・・・私達は、その蝶を直ぐに殺してしまいます。
 と言いますのは、虫カゴの中などに入れて生かして置くと、カゴの中で蝶が暴れて、翅がボロボロになってしまうからです。

 蝶を殺す時は、注射器や薬品は一切使いません。 翅の付け根の胸部という所を親指と人差し指で押さえるだけです。 あとは、三角紙という三角形に折り畳んだ紙に包んで家に持って帰り、なるべく速いうちに、上の写真のような桐の板で作った展翅台の上に翅を展(ひろ)げて形を整え、上からパラフィン紙で押さえて、マチ針で動かないようにシッカリと留め、三週間ほど陰干しをして、パリパリになる迄乾燥させるのです。

 この様にして出来た標本は、キチンとした標本箱に入れ、湿気・カビ・標本を食べる虫・直射日光に注意して保管すると、百年以上も保存できるのです。

(2000-04-20 小海町公民館報 第 365 号に掲載)

    


小海町の蝶(16) ルリシジミ

文    八岳晴耕
写真  小郷  毅 

   

    

   写真 小郷  リシジミはあちこちで見掛ける、ごく普通の蝶ですが、私の好きな蝶の一つです。特に日が傾きかけた真夏の午後など、普段はゆるやかに飛ぶこの蝶が、昼間の熱に浮かされたようにじっとりと汗ばんだ林縁を元気よく飛んで行くときなどは、瑠璃色に輝やく蝶の翅がひとまわり大きく見えとても美しく感じられるものです。 淡い青紫色をした蝶にはこの蝶の他にも何種類かの蝶がいますが、この一群の青色の蝶達は蝶の愛好家の間ではブルーと呼ばれ、広いファンを集めています。
 私も例に漏れずこのブルーのファンでしたが、最近爽やかな女性の友人の一人が、青紫色の蝶が大好きだという事が分かって以来、以前にもまして私はこのブルーに親しみを感じるようになってきました。 さて、写真の標本は、一九八一年の盛夏に松原湖の周辺で捕まえた雄ですが、暑い時期の雌の紋様は、前後翅とも外縁が幅広い黒褐色、基半部が淡い青紫色のシックな装いをしています。(34) 周年の発生回数は四〜六回ほどと推定されています。(36) 食草は季節、産地によって異なりますが、フジ・クズなどのマメ科の植物の他ミズキ科、バラ科、ブナ科タデ科等の植物を、幼虫は食しているようです。

         
(2000-06-01 小海町公民館報 第 366 号に掲載)
       

       

   
小海町の蝶(17) トラフシジミ

     
文    八岳晴耕
写真  小郷  毅

       

  
         
 

 筆者が写真のトラフシジミを捕まえたのは一九七八年八月二日の事ですから、この標本は、もう二二年前の標本という事になります。
 この年、三日間の夏休みを利用して、私ども一家三人は初めて小海町にやって来て松原の民宿「湖水荘」さんのお世話になったのですが、当時、娘さんの美枝子さんはまだ高校生で、とても素直な感じのお嬢さんでした。
 さて、その夏休みの二日目、現在のキャリフールセンターの裏山を一周する遊歩道を一家三人で散歩した際、道端のヒメジョオンの花に止まっていたのが、写真のトラフシジミでした。
 ご覧のように、トラフシジミの翅表は光沢のあるメタリックブルーですが、裏面は白とチョコレート色の虎斑模様であるところからトラフシジミという名前が付けられたのだと思います。
 発生は、春と夏の二回。
 夏型の裏面は、虎斑模様の白色の部分が、かなり茶色っぽくなります。
 食樹はフジ、ニセアカシアなどマメ科の他、ウツギ科の植物なども食しているようです。
 当時の写真を見ると、我家の長男は、まだまだとても幼く、散歩の折々、ヤッホーと言えず、やっとアッホーと叫んでいたのを、とても懐しく思い出します。
    

   (2000-07-15 小海町公民館報 第 367 号に掲載)

     

     

小海町の蝶(18) キベリタテハ

     
文    八岳晴耕
写真  小郷  毅
    

     
  
 どうです?
 シックな蝶でしょう?
 チョコレート色の地色に黄色のふち取り、更に、その内側に並んだトルコ石のような青紋。
 ・・・・・・この十九世紀の淑女(しゅくじょ)を想わせるキベリタテハは、日本産約230種類の蝶のうち、筆者の一番好きな蝶です。
 その上、この蝶の棲息地が、標高 1,000 〜 2,000 メートル程の山地や高原などである事が、この蝶に一層のロマンチックな印象を与えているのかも知れません。
 もし、小海町のシンボルとなるような蝶は?・・・・と訊かれたら、筆者はこのキベリタテハを、近隣の町村に先がけて、その第一候補に推薦したいと考えています。
 町民の皆さんの中の何人の方が、この蝶をご覧になった事があるのか分かりませんが、私達の小海町には、こんなに素敵な蝶が確実に棲んでいるのです。
 成虫の個体数は、何処の産地でも比較的少なく、七月下旬頃から出現。夏秋を経た一部の成虫は冬を越して、翌年の五月頃まで生存しているようです。
 写真の個体は、1991年8月22日、八ヶ岳山麓の林道で採集しました。
 小海町での植樹はダケカンバ、シラカバ等の様です。

      
(2000-09-01 小海町公民館報 第 368 号に掲載)

   

   
小海町の蝶(19)  ミヤマカラスジジミ   

文   八岳晴耕
写真 小郷  毅

    
 

   
 翅表が一様な黒色のミヤマカラスシジミはどちらかと言うと、余り目立たない蝶です。 しかし、夏期の茨沢林道脇のヒメジョオンの花にとまっているこの蝶を見ると
 何故とはなしに、そのヒッソリとした佇まいが素敵で思わず「いいな」と呟いてしまうことがあります。
 花にとまっている時に見えるのは、茶褐色の翅の裏面ですが、後翅の後縁角にある黒点をまぶした橙色紋が寂れた感じを呼び起こすせいか、筆者はヒメジョオンの花に静止しているこの蝶をみると、古風なあずまや風の茶室を思い出すから不思議です。 
 一般に、蝶の翅は表と裏の紋様がかなり違っているため、裏面の斑紋が種の同定の決め手となる場合がよく見受けられますが、この手法は表面がよく似た種類の多いシジミチョウ科の場合に特に有効のようです。
 写真の蝶は一九九三年八月二二日に、我家の庭で捕獲したものですが、この様に素敵な蝶が、自分の家の庭にいること自体が、とにかく嬉しい事に思えます。
 出現期は年一回で、七月から八月にかけて。生態は昼間は花に来ますが、夕方になると林縁を活発に飛び回る事が多いようです。
 食草は落葉低木のクロツバラ、クロウメモドキです。

   
      (2000-11-01 小海町公民館報 第 369 号に掲載)

    
    
 小海町の蝶(20) ゴマジジミ

   
文   八岳晴耕
写真  小郷 毅

   
 

  
 
 ゴマシジミは大変に変わった蝶です。
 卵は 8月後半から 9月にかけて、ワレモコウの花穂に産み付けられますが、間もなく卵から孵化した幼虫達はつぼみを食べて成長をします。
 ところが、この幼虫が四齢になると、今度はクシケアリによって蟻の巣の中に運び込まれ、それ以後、この幼虫達は蟻の幼虫を食べて冬を過し、翌年夏、蟻の巣の中で蛹になり、続いて7月下旬から 8月にかけて成虫になって地上に姿を見せる様になるのです。 クシケアリがゴマシジミの幼虫を巣の中に運ぶのはゴマシジミの幼虫の背中の蜜腺から出る液体を蟻達が好んでなめるためと言われています。
 さて、このゴマシジミの翅の色ですが、写真の蝶の場合は、ほぼ全域が黒褐色ですが、もっと黒いものから青白色斑が全体的に広がったものまで、地域によって本当に変異が様々です。
 写真の蝶を捕まえたのは一九八一年八月四日。場所は松原の民宿「大和屋」さんの東側の小高い山の上でした。・・・・しかし、この蝶の姿を見たのは、この時が最初で最後。それ以後は全く姿を見ておりません。 それでも、この蝶は町の何処かに、生きている筈。今後の探索が楽しみです。
   

(2000-12-01 小海町公民館報 第 370 号に掲載)